1次系の状態空間表現

一般には制御対象は非線形系ですが、ここでは重ね合わせの原理の成り立つ線形系(linear system)を考えます。また1入力1出力1次系(SISO 1st-order system)に限って、制御理論の概要を漸近安定性、時間応答、安定化制御、追値制御の4つに分けて述べます。

1次系の状態空間表現…Homework

[1]  制御対象が1入力1出力1次系の場合、そのモデルとして、次の状態空間表現が用いられます。

\displaystyle{(1)\quad \boxed{\left\{\begin{array}{ll} \dot{x}(t)=ax(t)+bu(t)&(x(t),u(t)\in{\bf R})\\ y(t)=cx(t)&(y(t)\in{\bf R}) \end{array}\right.} }

第1式は状態方程式とよばれ、x(t),u(t)はそれぞれ時刻tにおける状態変数、入力変数(アクチュエータを操作する)を表しています。また、第2式は出力方程式とよばれ、y(t)は時刻tにおける出力変数(センサを用いて観測される)を表しています。{\bf R}は実数の集合を表します。以下では状態空間表現(1)を簡単に1次系と参照します。

この状態空間表現は図3のようなブロック線図で表されます。


図1 1入力1出力1次系状態空間表現のブロック線図

具体例を示すために、次図のような走行する車を考えます。


図2 走行する車

ニュートンの運動第2法則「質量×加速度=外力」を適用するため、車は質点とみなし、直線運動をしているとします。車の質量をm、時刻 t における車の速度をv(t)、車に働く外力(制動力)を f(t) とすると、車の運動方程式は次の微分方程式で与えられます。

\displaystyle{(2)\quad m\dot{v}(t)=f(t)\qquad(v(0)\ne0) }

ここで、\dot{v}(t)=\frac{d}{dt}v(t)は車の加速度を表します。もし空気による抗力cv(t)を考慮する場合は、車の運動方程式は次式となります。

\displaystyle{(3)\quad m\dot{v}(t)=-cv(t)+f(t) }

いま車は一定速度v^*で等速運動をしているとします。このとき加速度は零となるので

\displaystyle{(4)\quad 0=-cv^*+f^* }

を満たす一定の制動力f^*=cv^*が定まります。実際には、この等速運動が何らかの原因により乱されたとき、これを速やかに元に戻すことが要求されます。そこで(3)から(4)を辺々引き算すると次式を得ます。

\displaystyle{(5)\quad \underbrace{\frac{d}{dt}(v(t)-v^*)}_{\dot{x}(t)}=\underbrace{-\frac{c}{m}}_{a}\underbrace{(v(t)-v^*)}_{x(t)}+\underbrace{\frac{1}{m}}_{b}\underbrace{(f(t)-f^*)}_{u(t)} }

これが入力1出力1次系の状態方程式の一例です。ここで、x=0u=0が、平衡状態v^*とこれを維持する平衡入力f^*を表していることに留意します。

1次系の漸近安定性…Homework

[2] 1次系(1)で表される制御対象は平衡状態にあるとします(x=0, u=0)。いま平衡状態が乱され、時刻t=0においてx(0)\ne 0となったとします。特に制動力を変えないとするとu=0です。このとき、元の平衡状態x=0に復帰できるならば、1次系(1)は漸近安定(asymptotically stable)であると言います。そこで

\displaystyle{(6)\quad \boxed{\dot{x}(t)=ax(t)\qquad(x(0)\ne0)} }

の解

\displaystyle{(7)\quad x(t)=e^{at}x(0) }

の振舞いを調べてみます。t\rightarrow\inftyのとき

\displaystyle{(8)\quad x(t) \rightarrow  \left\{\begin{array}{ll} 0&(a<0)\\ x(0)&(a=0)\\ \infty&(a>0) \end{array}\right. }

となるので、1次系(1)の漸近安定性の必要十分条件は

\displaystyle{(9)\quad \boxed{a<0} }

であることがわかります。

このように漸近安定性は、(1)においてu=0とした自由系(unforced system)(6)に基づいて判定されることに留意してください。

上の等速運動をしている車の例を考えます。いま突風による急激な速度変化のためv(0)\ne v^*となり、特に制動力を変えないとするとu=0なので

\displaystyle{(10)\quad \underbrace{\frac{d}{dt}(v(t)-v^*)}_{\dot{x}(t)}=\underbrace{-\frac{c}{m}}_{a}\underbrace{(v(t)-v^*)}_{x(t)} \qquad(x(0)=v(0)-v^*\ne0) }

を解いて、元の速度v^*に復帰できるかを判断できます。ここで、a<0ですから、漸近安定であることが確かめられます。

以上の議論は数学的には明らかですが、物理的にはどのような力が働いて平衡状態に戻るのでしょうか?それは空気抵抗-cv(t)が速度の増減によって、逆方向に働くからといえます。速度に比例する抗力を減衰力、位置に比例する抗力を復元力といいます。モノつくりにおいて、これらを内在させることをパッシブ制御、コントローラ(補償器)を用いて補うことアクティブ制御といいます。

演習A01…Flipped Classroom

1^\circ 状態方程式\dot{x}(t)=ax(t)+bu(t)が与えられるときの漸近安定性の判定は、なぜ\dot{x}(t)=ax(t)に基づいて行うのか説明せよ。

2^\circ MATLABまたはSCILABに次のコマンドを与えて、どのグラフが漸近安定であるか述べよ。

MATLAB
%a01.m
clear all, close all
a1=1; a2=0; a3=-5; 
b=1; c=1;
sys1=ss(a1,b,c,[]);
sys2=ss(a2,b,c,[]);
sys3=ss(a3,b,c,[]);
t=0:0.01:1;
x0=1;
initial(sys1,sys2,sys3,x0,t)
grid
title('Stability of 1st-order System')
xlabel('time')
ylabel('x(t)')
legend('a=1','a=0','a=-5')
%eof
SCILAB
coming soon

図3 どのグラフが漸近安定であるか?