調査1

2. 調査1:Brain Mobility
本節では、OECDが発行しているEducation at a Glanceから5年分(2004~2008年)の数値データを得て([7]~[12])、留学生数の現状を把握する。

2.1 世界における留学生数の増大傾向
表1に基づく図1は、世界における留学生数の増大傾向を示している。これを指数関数近似したグラフを重ねて描いている。専門家によると2008年9月のリーマンショックに端を発する金融危機の影響のため多少下方修正されるとの見解もあるが、現時点2007年での約300万人が、約15年で2倍の約600万人に増加すると予測できる。グローバル30における数値目標は、我が国はその経済力からして、600万人の5%、すなわち30万人を確保したいという意図があったと言われている。


図1 世界における留学生数の増大傾向(今後は留学生数は5年で100万人の割合で増える)

\begin{array}{c|c} Year & Foreign\ students\\\hline 2000&	1970518\\ 2004&	2651144\\ 2005&	2725996\\ 2006&	2924679\\ 2007&	3021106\\ 2008&	3343092\\ \end{array}
表1 世界における2000年以降の留学生数

それでは、どの国が多くの留学生を出しているかを調べてみると、第1位が中国、第2位がインド、第3位が韓国である。そこで、表6.2に基づく図6.2に、日本・韓国・中国・インドからの留学生数の推移を示す。これから現時点2008年で、全世界の約15.2%(=51/334)の留学生が中国人であることがわかる。また、韓国は日本の約2倍の留学生を海外に出している。これは、韓国の人口が約4800万人、日本の人口が約1億2700万人であることを考慮すると(表6.4参照)、日本の約5.2倍(=2×127/48)もの留学生を出していることになる。さらに、中国、インド、韓国からの留学生数は増大しているが、日本からの留学生数は減少していることもわかる。


図2 日本・韓国・中国・インドから留学した学生数の推移
(日本だけが減少している、韓国は日本の2倍)

\begin{array}{c|cccc} &	Japan&	Korea&	China&	India\\\hline 2004&	61437&	98103&	381330&	129627\\ 2005&	62853&	96423&	404664&	139223\\ 2006&	61035&	103825&	451526&	148116\\ 2007&	56060&	107141&	457366&	162221\\ 2008&	52849&	115464&	510842&	184801 \end{array}

表2 日本・韓国・中国・インドから留学した学生数

2.2 OECD主要国に留学した学生数の推移
前項で日本からの留学生数は減少傾向にあることを述べたが、これをOECD主要国(オーストラリア、カナダ、フランス、ドイツ、韓国、英国、米国)に留学した学生数から裏付けてみる。これを表わしたのが図3である。米国と英国への留学生数の減少は明らかである。いわゆる、日本人学生の内向き志向を反映していると言える。


図3 日本からのOECD主要国への留学生数の推移
(米国への留学が圧倒的に多いが減少傾向にある)


図4 韓国からのOECD主要国への留学生数の推移
(米国と日本への留学が多い)

一方で、韓国、中国、インドからのOECD主要国に留学した学生数の推移を、それぞれ図4、図5、図6に示す。いずれも米国への留学の増加傾向が見られる。

日本やインドからの留学は米国が主であるが、韓国ではこれに英国が加わる。中国は日本やオーストラリアへの留学も多い。


図5 中国からのOECD主要国への留学生数の推移
(米国と日本への留学が多いが全世界に留学している)


図6 インドからのOECD主要国への留学生数の推移
(米国への留学が多い)

2.3 OECD主要国で受け入れた留学生数の推移
これまで海外に出た留学生数に関して調べてきたが、今度は逆の流れすなわち受け入れた留学生数を調べてみる。表3に基づく図7に、OECD主要国で受け入れた留学生数の推移を示す。これから、最大の留学生受け入れ国は米国であり、その構成比は18.7%である。また、日本の留学生受け入れの構成比は3.8%となっている。ちなみに、中国では、2008年に189の国・地域から前年比14.32%増の22万人以上の留学生を受け入れたのと、中国教育部[13]による広報がある。参考のために、表4に、各国の人口とGDPを示す[14],[15]。本年、日本はGDP2位の座を中国に明け渡した。


図7 OECD主要国で受け入れた留学生数の推移

\begin{array}{c|ccccccccc} &Australia&Canada&	France&	Germany&	Japan&	Korea&	UK&	US\\\hline 2000&	105764&	94401&	137085&	187033&	66607&	3373&	222936&	475169\\ 2004&	166955&	132982&	237587&	260314&	117903&	10778&	300056&	572509\\ 2005&	117034&	75249&	236518&	259797&	125917&	15497&	318399&	590167\\ 2006&	184710&	148164&	247510&	261363&	130124&	22260&	330078&	584817\\ 2007&	211526&	132246&	246612&	258513&	125877&	31943&	351470&	595874\\ 2008&	230635&   185399&  243436&   245522&  126568&    40322&   335870&  624474\\     &    (6.9\%)& (5.5\%)& (7.3\%)& (7.3\%)& (3.8\%)& (1.2\%)& (10.0\%)& (18.7\%)& \end{array}
表3 OECD主要国で受け入れた留学生数

\begin{array}{c|ccccccccc} &Australia&Canada&	France&	Germany&	Japan&	Korea&	UK&	US\\\hline POP[mil]&	21&	33&	62&	82&	127&	48&	61&	314\\ GDP[B$]&	994&	1336&	2656&	3338&	5068&	832&	2178&	14119\\ \end{array}
表4 OECD主要国における2009年の人口(百万)とGDP(10億US$)

はじめに

1. はじめに
大学の国際化の流れの中で、8大学工学系部局は次のような問題に直面している。

【問題1】世界的な人材獲得競争の下で、優秀な工学系留学生をどう確保するか。
【問題2】留学生ばかりでなく日本人学生も含めて、国際的に通用する工学系分野の学力をどう保証するか(特に大学院生の場合)。

まず、問題1に関しては、たとえば、授業を英語で行うことが求められているが、日本人学生の理解力は落ちないのか、また新興国からの留学生は日本での就業機会を求めることが多いので日本語での専門能力も大切ではないかという懸念がある。ときには、何のために留学生をこれまで以上に受け入れようとしているのか自問する教員も多い。つぎに、問題2に関する一般的な議論は緒についたばかりであるが[1]、8大学工学系部局の使命(博士課程修了生の輩出など)を考えると、次が問われていると言える。

【問題3】グローバル経済社会における問題の迅速な解決のためにイノベーションを生み出すことのできる博士課程学生の教育をどう行うか。

当分科会では2年間にわたって、6回の会議と1回のシンポジウムを開催し、上述の問題、特に問題1と問題3について検討してきた。これまでの議論を8大学工学系部局の国際戦略として取りまとめるにあたり(第6.4節)、問題の本質の理解の一助とするために、それぞれ次の2つの調査結果を述べる。

【調査1】Brain Mobility(第2節)
【調査2】Brain Circulation (第3節)

まず、調査1では、今後10年間の留学生の増加は尋常でないことを統計データで確認する。やはり、人口や経済力に応じた留学生の受け入れは避けられないのなら、どのようにして、優秀な学生を戦略的に確保するかが問題となる。これまでそれに成功し、今日のグロバール経済社会の形成に寄与しているのは米国である。その実態は次の文献([2]~[6])によく記されている。

AnnaLee Saxenian: The New Argonauts ? Regional Advantage in a Global Economy

本書のキーワードは頭脳循環(Brain Circulation)であり、その主役は米国に留学しPh.Dを取得した移民技術者である。頭脳循環は結果論、解釈論に過ぎないとも言えるが、オープン・イノベーションに関心をもつ革新技術に詳しい工学系部局においてこそ、真の評価ができるはずである。調査2では、上記に基づいて8大学工学系部局の国際戦略立案に参考となる知見をまとめている。

8大学は、お互いに競争関係にあることも事実なので、同じ国際戦略を描くことはまずあり得ない(連携する場合は別であるが)。すなわち、8大学工学系部局にはそれぞれの競争優位性があるので、戦術面では独自のものを展開することになる。したがって、当分科会で議論したのは、頭脳循環をベースにした8大学工学系部局の国際戦略の枠組みとそのための検討課題であって、たとえばどうやって英語で授業を行えば日本人学生の理解力は落ちないのかなどの戦術面には立ち入っていない。