8. 伝達関数から状態方程式を導く

線形系を知るということは,インパルス応答を知るということにほかならない。というのは,どのような入力が与えられても,インパルス応答とのたたみこみ積分を行って出力(零状態応答)が得られるからである。インパルス応答をラプラス変換したものを「伝達関数」と呼ぶ。ステップ応答の微分がインパルス応答であり,周波数応答の逆フーリエ変換がやはりインパルス応答であるから,実際には,「システム同定」実験を通してステップ応答や周波数応答を得て(伝達関数を陰に陽に求めて),さまざまな制御方式を設計することがよく行われている。

一方,これまで私たちは,物理法則に基づいて状態方程式と出力方程式からなる状態空間表現を得ていたが,もし同定実験を通して得られた伝達関数から状態空間表現を求めることができれば,これまで学んださまざまな特性解析・コントローラ設計の方法を適用できるであろう。インパルス応答や伝達関数は線形系の入出力関係を表すので「外部記述」と呼ばれ,これに対応する状態空間表現は「内部記述」と呼ばれる。そして,外部記述から内部記述を求めることを「実現」という。

本章では,状態空間表現の構造のより深い理解のためもあって,この実現問題を扱う。実は,与えられた外部記述に対応する状態空間表現は無数に存在する。これは状態空間の次数と座標軸の取り方に自由度が存在するためである。特に,最小次数の状態空間表現を求めることを「最小実現」という。興味深いのは,最小次数が可制御かつ可観測の性質により特徴付けられることである。また,座標軸の適切な取り方の一つに,特に信号処理分野で有用性が認められている「平衡実現」と呼ばれるものがある。