【本章のねらい】 ・ 状態オブザーバを構成する。 ・ 可観測性と可検出性を判定する。 |
4.1 状態オブザーバ
いま制御対象は平衡状態にあるとし,何らかの要因でこれが乱されたとき,速やかに元の平衡状態に戻す手段として,入力出力次元線形系(次系)
に対する状態フィードバック を考えた。しかしながら,現実には状態変数をすべて計測できる場合は少ない。したがって,状態フィードバックは実際には実施できるとは限らない。そこで,状態オブザーバとよばれる次系 が考案されている。ここで,サイズの行列が設計パラメータである。このブロック線図をつぎに示す。 実際,(4.3)から(4.1)の第1式を辺々引き算すると ここで,行列が安定行列であれば となって,次系(4.3)の状態が次系(4.1)の状態に漸近していく。したがって,行列が安定行列となるように状態オブザーバのゲイン行列をどう求めるか問題となる。 一つのアプローチは,つぎの仮想的な次系 を安定化する状態フィードバック を求めることである。実際,閉ループ系は となって,行列を安定行列,よって行列を安定行列とすることができる。 したがって,前章の状態フィードバックの設計法をそのまま援用できるが,実際には次章のLQG制御問題として解く場合が多い。 例題4.1 2次系 に対する状態オブザーバを,行列の固有値がとなるように構成せよ。 行列の特性多項式は これらから,オブザーバゲインは,つぎのように計算される。 したがって,求める状態オブザーバは 演習4.1 2次系 に対する状態オブザーバを,行列の固有値がとなるように構成せよ。 例題4.2 例題4.1において,のときの零入力応答を,状態オブザーバの出力が追従する様子をMATLABでシミュレーションせよ。 %obs_err.m 演習4.2 演習4.1において,のときの零入力応答を,状態オブザーバの出力が追従する様子をMATLABでシミュレーションせよ。 さて,次系(4.1)に対する状態フィードバック(4.2)を,状態オブザーバ(4.3)の出力(=状態)を用いて のように実施するとき,オブザーバベースト・コントローラは次系 となる。このとき,閉ループ系はつぎのように表される()。 このように閉ループ系の行列の固有値の集合は,状態フィードバックによるの固有値の集合と状態オブザーバによるの固有値の集合の和となる(テキスト「線形システム制御入門」の 4.4節参照)。 例題4.3 1次系 に対する状態フィードバック と,状態オブザーバ を考える。このときオブザーバベースト・コントローラ による閉ループ系の行列の固有値を求めよ。 すなわち で表される。この行列の固有値を求めると より,ととなる。 演習4.2 例題4.3において,のとき,状態フィードバックによる閉ループ系とオブザーバベースト・コントローラによる閉ループ系の応答を比較したい。との場合について,それらの応答をMATLABでシミュレーションせよ。 |
4.2 可観測性と可検出性
どのような次系に対しても状態オブザーバが求まるわけではない。状態オブザーバが構成可能な条件を可検出性という。また,可検出性の十分条件である可観測性の条件も知られている。これらの定義と等価な条件をまとめてお(テキスト「線形システム制御入門」の 定理4.1,定理4.2参照)。
【可検出性の定義とその等価な条件】 定義D0: 状態オブザーバを構成可能 これらの条件の一つが成り立つとき次系は可検出,は可検出対という。 【可観測性の定義とその等価な条件】 定義O0: 任意有限時間の入力と出力から,初期状態を一意に決定可能 これらの条件の一つが成り立つとき次系は可観測,は可観測対という。 例題4.4 つぎの行列と行列をもつ2次系の可観測性を,可観測性行列の階数を求めて判定せよ。
(2) 可観測性行列は,。この階数は1で,システムの次数2と等しくない。したがって,この2次系は可観測でない。 (3) 可観測性行列は,。この階数は1で,システムの次数2と等しくない。したがって,この2次系は可観測でない。 演習4.4 例題4.4における可観測性の判定を,行列の固有値に基づいて行なえ。 |
4.3 状態オブザーバの低次元化
これまで,状態オブザーバの出力に状態フィードバックのゲイン行列をかけてオブザーバベースト・コントローラを構成した。しかしながら,最終的に必要なのは,状態の推定値ではなく,その線形関数の推定値であることから,線形関数オブザーバ
が考案されている。ここで,サイズの適当な行列を用いて を満足させることができれば が成り立ち,これから したがって を得る(テキスト「線形システム制御入門」の 4.3節参照)。特に,の場合は恒等関数オブザーバと呼ばれる。線形関数オブザーバを使用する利点は,状態オブザーバ(4.3)の次元数は制御対象の次元数と同じであったが,これを減らすことができる点である(たとえば,倒立振子の次元数は4,出力数は2なので,状態オブザーバを用いた場合は4次元であるが,恒等関数オブザーバを用いれば2次元に,線形関数オブザーバを用いれば1次元に減らすことができる。)。 例題4.5 1入力出力次系 に対して,次元の恒等関数オブザーバの一つは次式で与えられることを示せ。 ここで,はを安定行列とするサイズの適当な行列である。 と選べば,次式が成り立つ。 演習4.5 例題4.1の2次系に対する恒等関数オブザーバを,その固有値がとなるように求めよ。この恒等オブザーバに対して例題4.2と同様のシミュレーションを行え。 例題4.6 例題4.5の1入力出力次系に対して,線形関数 を推定する線形関数オブザーバの一つは,つぎに入力出力{\bf 1次系}として与えられることを示せ。 ただし,と定める。 と選べば,次式が成り立つ。 演習4.6 例題4.1の2次系に対して,状態フィードバックを考える。このとき,この状態フィードバックを実施する1次元線形関数オブザーバを,その固有値がとなるように求めよ。また,その出力がを追跡するシミュレーションを行え。 |
演習問題の解答
【演習4.1】 行列の特性多項式は
行列の特性多項式は \\ したがって,求める状態オブザーバは 【演習4.2】 %obs_err2.m 【演習4.3】 %observer_based_controller.m 【演習4.4】 したがって,この2次系は可観測である。 (2) 行列の固有値は。 したがって,この2次系は可観測ではない。 (3) 行列の固有値は。 したがって,この2次系は可観測ではない。 【演習4.5】 ,だから,例題4.1の恒等オブザーバは,次式となる。 ただし,。また,恒等オブザーバの出力が状態を追跡していく様子は,つぎのMファイルを用いてシミュレーションできる。 %obs_err3.m 【演習4.6】 ,,,だから,例題4.1の関数オブザーバは,次式となる。 ただし,,。また,関数オブザーバの出力が状態フィードバックを追跡していく様子は,つぎのMファイルを用いてシミュレーションできる。 %obs_err4.m |