【本章のねらい】 ・ 状態フィードバックを設計する。 ・ 可制御性と可安定性を判定する。 |
3.1 状態フィードバック
いま制御対象は平衡状態にあるとし,何らかの要因でこれが乱されたとき,適当な手段を用いて,速やかに元の平衡状態に戻したい。そのような手段の一つとして,入力出力次元線形系(次系)
に対する状態フィードバック を考える。このとき,(3.2)式を(3.1)式に代入して,閉ループ系 を得る。このブロック線図を次に示す。 上の制御目的が達成されるためには,閉ループ系の行列,すなわち,行列が安定行列となるように,状態フィードバックのゲイン行列を決めればよい。実際, (3.4)「任意のに対して,」 が成り立ち,これは平衡状態に戻ることを意味するからである。 まず,1次系の状態フィードバックの例を考える。 例題3.1 時定数と定常ゲインをもつ1次系 に対して,新しい入力をもつ状態フィードバック を行うと閉ループ系の時定数は,定常ゲインはとなることを示せ。 となる。これは時定数と定常ゲインをもつ1次系を表している。 演習3.1 1次系に対するフィードバックを,閉ループ系の時定数が,定常ゲインがとなるように 演習3.2 例題2.5で得た図上(–平面)に,望ましい閉ループ系の時定数,定常ゲインを表す点を指定し,ginputを使って読み込み,これを達成するフィードバックを定めよ。 つぎに,2次系の状態フィードバックの例を考える。 例題3.2 減衰係数と固有角周波数をもつ2次系 に対して,新しい入力をもつ状態フィードバック を行うと,閉ループ系の減衰係数はと固有角周波数はとなることを示せ。 これは減衰係数と固有角周波数をもつ2次系を表している。 演習3.3 例題2.6で得た図上(–平面)に,望ましい第1番目のオーバーシュートの頂点の座標を指定し,ginputを使って読み込み,対応する減衰係数と固有角周波数を(2.22)式を使って求め,これを達成するフィードバックを定めよ。 さて,次系に対する状態フィードバックの設計法を考える。まず,1入力系の場合を考え,つぎの条件を仮定する(1入力系の可制御性行列は次の正方行列となり,本条件はその正則性を意味する。)。 また,行列の固有値を,行列の固有値をとするとき,,それぞれの特性多項式を次式で表す。 このとき,閉ループ系の行列の固有値を,指定された安定固有値に設定する状態フィードバックのゲイン行列は または で与えられる(テキスト「線形システム制御入門」の3.3節参照)。(3.8})式と(3.9})式を比較すると,前者はの特性多項式の係数の計算を,後者はのべき乗計算を必要とすることに注意する。 例題3.3 2次系 に対する状態フィードバックを,行列の固有値が,つぎのものとなるように求めよ。 (1) 行列の特性多項式は したがって,ゲイン行列は,つぎのように計算される。 (2) 行列の特性多項式は したがって,ゲイン行列は,つぎのように計算される。 演習3.4 つぎの2次系に対する状態フィードバックを,閉ループ系の行列の固有値がとなるように求めよ。 (2) 最後に多入力をもつ次系に対して状態フィードバックのゲイン行列を求めることを考える。の固有値に対応する固有ベクトルをとするとき,次式が成り立つ。 ここで とおくと これから,を次式で求めることが考えられる。 ただし,はの固有値に等しくないとし,次元ベクトルは,上の逆行列が存在する範囲で適切に指定するものとする。これから,多入力系の場合,状態フィードバックは,固有値を指定しただけでは,一意に定まらないことがわかる。 例題3.4 2入力2次系 に対するつぎの状態フィードバックによる閉ループ系おける行列の固有値を求めよ。 (1) (2) この特性多項式は したがって,行列の固有値は,。 (2) 閉ループ系の行列は この特性多項式は したがって,行列の固有値は,。 演習3.5 例題3.4の2つの状態フィードバックは,公式(3.13})において (1) (2) と指定して得られることを,MATLABを用いて確かめよ。 |
3.2 可制御性と可安定性
どのような次系に対しても,閉ループ系を安定化をする状態フィードバックが求まるわけではない。その条件を可安定性という。また,(3.6})は,可安定性の十分条件である可制御性の条件として知られている。これらの定義と等価な条件をまとめておく(テキスト「線形システム制御入門」の 定理3.5,定理3.6参照)。
【可安定性の定義とその等価な条件】 これらの条件の一つが成り立つとき次系は可制御,は可制御対という。 【可制御性の定義とその等価な条件】 これらの条件の一つが成り立つとき次系は可制御,は可制御対という。 例題3.5 つぎの行列と行列をもつ2次系の可制御性を,可制御性行列の階数を求めて判定せよ。 (1) (2) (3) 解答 (2) 可制御性行列は,である。この階数は1で,システムの次数2と等しくない。したがって,この2次系は可制御でない。 (3) 可制御性行列は,である。この階数は2で,システムの次数2と等しい。したがって,この2次系は可制御である。 演習3.6 つぎの行列と行列をもつ3次系の可制御性を,可制御性行列の階数を求めて判定せよ。 (1) (2) MATLABを用いて可制御性を判定するには,たとえば例題3.5(3)の行列と行列に対しては,つぎのコマンドを与えればよい(tolは零判定基準でデータの誤差を考慮して決める。省略すればデフォルト値が用いられる。)。 %controllability_check.m ここで,4行目の結果がすべて真であれば,可制御である。 演習3.7 上のコマンドを用いて演習3.6の行列と行列をもつ3次系の可制御性を判定せよ。 例題3.6 例題3.5の行列と行列をもつ2次系の可安定性を判定せよ。 したがって,この2次系は可安定である。 (2) 行列の固有値は。ともに不安定固有値。 したがって,この2次系は可安定ではない。 (3) 行列の固有値は。のみ不安定固有値。 したがって,この2次系は可安定である。 演習3.8 演習3.6の行列と行列をもつ3次系の可安定性を判定せよ。 MATLABを用いて可安定性を判定するには,たとえば例題3.5(3)の行列と行列に対しては,つぎのコマンドを与えればよい。 %stabilizability_check.m 演習3.9 上のコマンドを用いて演習3.6の行列と行列をもつ3次系の可安定性を判定せよ。 |
演習問題の解答
演習3.1 ,より,,。
演習3.2 たとえば,つぎのMファイルを実行すればよい。 %sf1.m 演習3.3 たとえば,つぎのMファイルを実行すればよい。 %sf2.m 演習3.4 行列の特性多項式は (1) 行列の特性多項式は したがって,ゲイン行列は,つぎのように計算される。 (2) 行列の特性多項式は したがって,ゲイン行列は,つぎのように計算される。 演習3.5 たとえば,つぎのMファイルを実行すればよい。 %sf_minputs.m 演習3.6 (1) 可制御性行列は, (2) 可制御性行列は, 演習3.7 Mファイル{\tt controllability\_check.m}のデータ{\tt A,B}の定義を次のように書き換える。 (1) A=[0 1 0;0 -1 1;0 0 -1]; B=[0;1;0]; 演習3.8 したがって,この3次系は可安定である。 (2) 行列の固有値は。のみ不安定固有値。\\ したがって,この3次系は可安定である。 演習3.9 Mファイル{\tt stabilizability\_check.m}のデータ{\tt A,B}の定義を,次のように書き換える。 (1) A=[0 1 0;0 -1 1;0 0 -1]; B=[0;1;0]; |