おわりに

5. おわりに
 当分科会、大学国際戦略分科会(第1分科会)は6回開催された。
 第1回では、当分科会の目的を、次のように定めた。
 「8大学は,『国際戦略本部強化事業』[33]の中で,それぞれの国際戦略本部を設置している。どのような大学国際戦略のもとで,どのような工学系人材育成の方策を計画・実施しているかを調査し,工学系部局における優れた国際展開モデルを模索する。」
また、東北大学准教授・米澤彰純先生をお招きして、「知の大競争時代とは?―理念と現実―」についてご講演をお願いし、次のコメントをいただいた。
 「頭脳循環の議論、とても大切だと思います。ぜひ、八大学それぞれが、それぞれの個性を活かす形で、大学発の戦略を立てていただくことが、学生にとっても喜ばしいことだと思います。」
 第2回では、国際共同教育の意義や実施体制について、文献[34]~[40]に基づいて議論した。
 第3回では、各大学の国際戦略について議論した。
 第4回では、中間報告[41]のアンケート結果(付録参照)について議論した。
 第5回では、オープンイノベーション[17]について議論した。
 第6回では、当分科会からの提言事項を取りまとめた。
 以上の議論に基づいて、工学系部局における優れた国際展開モデルを模索した結果が、本節の内容である。
 なお、第4回開催当日、当分科会が企画して、シンポジウム「理工系学部における国際戦略」を開催した。講師は
 文部科学省顧問・木村孟氏
 政策研究大学院大学・角南篤准教授
 東北大学高等教育開発推進センター・米澤彰純 准教授
にお願いした。角南先生と米澤先生には、付録に示すように、中間報告[41]のアンケートにもご回答いただいた。両先生からは次のコメントをいただいた。
 『日本と国際社会をむすび、相互に行き来できる人材をそだてるということは、その分、我が国がいままで経験しなかった大規模な頭脳流出のリスクに直面することを意味します。したがって、国際的に魅力的な教育と研究が今まで以上に目に見える形で行われる必要が生じますね。』(米澤)
 『日本での産学連携は「シリコンバレーモデル」以外に多様な形態があるので、それらを生かした国際戦略を幅広くとらえること。例えば、産業革新機構など日本版SWFの大学による活用など、新たな取り組みを利用する。』(角南)
 社会の仕組みなど変わるはずがないと誰もが思っていたが、2011年になって、ネットの力は社会体制を揺らし始めた。その力は、アナリー・サクセニアン女史の助言
 『日本にとっての課題は、企業や金融機関、教育機関の垣根を取り払うこと』
に沿うような影響を与え得るのだろうか。
(文責・第1分科会主査)

参考文献
[1]「日本の大学『ガラパゴス化』」―中韓との連携通じ脱却を―、日経2010/06/14
[2] AnnaLee Saxenian: The New Argonauts — Regional Advantage in a Global Economy, Harvard University Press, 2006
[3] 酒井泰介:「最新・経済地理学」―グローバル経済と地域の優位性―([1]の訳書)、日経BP社、2008
[4]* AnnaLee Saxenian: The New Argonauts, Word into Action, pp.99-110, 2008
[5]* AnnaLee Saxenian: Brain circulation network, 2006
[6]* AnnaLee Saxenian: Global mobility of skill and the competition for
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[8]* OECD:Education at a Glance 2006
[9]* OECD:Education at a Glance 2007
[10]* OECD:Education at a Glance 2008
[11]* OECD:Education at a Glance 2009
[12]* OECD:Education at a Glance 2010
[13] 中国教育部:http://www.spc.jst.go.jp/organization/org_07.html
[14]* 国の人口順リスト:http://ja.wikipedia.org/wiki/
[15]* 国の国内総生産順リスト:http://ja.wikipedia.org/wiki/
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[17]* 内閣府:「オープンイノベーション」を再定義する、2010
[18] 文部科学省:平成21年度版「科学技術白書」―世界の大転換期を乗り越える日本発の革新的科学技術を目指して―、日経印刷㈱、2009
[19]「日本人学生、留学生との競争萎縮」―大学国際化「内向き」に拍車―、教育、日経2011/02/28
[20]* 新成長戦略~「元気な日本」復活のシナリオ~、2010、http://www.meti.go.jp/topic/data/growth_strategy/index.html
[21] 世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI):http://www.jsps.go.jp/j-toplevel/index.html
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[23]「中国経済の展望」―起業家精神が原動力に―、経済教室、日経2011/02/07
[24] 安田聡子:「外国人高度人材のグローバル移動とイノベーション」―brain circulation(頭脳循環)の世界的潮流にわが中小企業はどう向き合うか―,中小企業総合研究第6号、pp.21-42 、2007
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[27]「加速する大学の国際化」―留学生争奪、新興国熱く―、日経2010/08/15
[28]「留学生アジアで奪い合う」―ライバルは欧米+中韓―、日経産業新聞2010/09/21
[29]「留学生誘致は大学改革で」、インタビュー領空侵犯、日経2008/09/22
[30]* 日本学生支援機構:平成22年度外国人留学生在籍状況調査結果、2010
[31] JUNBA – サンフランシスコ・ベイエリア大学間連携ネットワーク :http://www.junba.org/index_j.html
[32] 九州大学ロバート・ファン/アントレプレナーシップ・センター:http://www.qrec.kyushu-u.ac.jp/
[33] 日本学術振興会:「グローバル社会における大学の国際展開について」~日本の大学も国際化を推進するための提言~、研究環境国際化の手法開発(大学国際戦略強化事業)最終報告書、2010
[34]* 米澤彰純:「世界大競争時代の大学人材養成~国際共同教育の最前線~」、
第1回 序に代えて― 世界の中の日本の大学教育―
[35]* 米澤彰純: 「世界大競争時代の大学人材養成~国際共同教育の最前線~」、
第2回 ダイナミックに変化する中国と日本のトップ大学
[36]* 米澤彰純:「世界大競争時代の大学人材養成~国際共同教育の最前線~」、
第3回 AUN/SEED-Netと東海大学
[37]* 米澤彰純:「世界大競争時代の大学人材養成~国際共同教育の最前線~」、
第4回 慶應義塾大学と延世大学
[38]* 米澤彰純:「世界大競争時代の大学人材養成~国際共同教育の最前線~」、
第5回 豊田工業大学シカゴ校
[39]* 米澤彰純:「世界大競争時代の大学人材養成~国際共同教育の最前線~」、
第6回 早稲田大学―ナンヤン理工大学ダブルMBAプログラム
[40] 渡邊公一郎:九州大学のグローバル30への取り組み、工学・工業教育研究講演会講演論文集、pp.224-225、2010
[41] 梶原宏之:工学系部局の国際戦略の枠組みに関する一考察、工学・工業教育研究講演会講演論文集、pp.226-227、2010

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